読書感想文


遙都 City Eternity 渾沌出現
柴田よしき著
トクマノベルズ
1999年3月31日第1刷
定価1200円

 「炎都」「禍都」に続くシリーズ第3弾。
 前作では京都は壊滅した上になんとテニアン島が空を飛んできて京都の上空に居座るというどえらいことになってしまったわけであるが、今回はさらにスケールアップ。廃墟と化した京都を管理するためにやってきた政府の危機管理委員会は何者かに乗っ取られ、その者たちは彼らの主人である黒き存在を閉じこめられた空間から解放しようとしている。そのためには霊地である京都とテニアン島を支配しなければならないのだ。その存在が地球上の生物にもたらす害は何か。
 かつてそれを封じ込めた者の子孫や生まれ変わりが「炎都」「禍都」で活躍した主人公たちなのである。日本を襲う危機に、彼らは再びその黒き存在を封じ込めなければならない。
 新たな登場人物が次々と登場し、これまでの巻と同様断片的なシーンが最初は何の関連もなく描かれ、そして少しずつラストに向かって収斂していく。「炎都」ほど雑然とはしていないが「禍都」ほどまとまってもいない。様々な要素を力ずくでまとめあげていく筆致は圧倒的。
 ただ、SF的なアイデアとオカルト的なアイデアのまざりぐあいにいささかむらがあり、提示されたまま解明されていない謎や、思わせぶりに登場しながらあまり派手な見せ場がないままという人物もいる。これはつまりまだまだ続くということなんだろう、きっと。一応黒き存在との戦いには決着はついているのだが、それだけで終わってもらったのでは読む方が消化不良になってしまう。
 とにかく巻を追うごとに広げた風呂敷が大きくなっていく。壮大なほら話である。どこまでスケールアップしていくのか、予想がつかない。その反面、木梨香流や真行寺君之たちの愛の物語という印象は次第に薄れていく。それはそれでしかたのないことなのかもしれないけれど。

(1999年3月21日読了)


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