読書感想文


龍の帝国 チョンクオ風雲録 その一
デイヴィッド・ウィングローヴ著
野村芳夫訳
文春文庫
1991年12月10日第1刷
定価641円

 足かけ7年以上かかって全16巻が完結したので、一気に読むことにした。だから定価は発売当時のもので、今は変わってるかもしれない。そこらあたりはご容赦を。
 舞台は22世紀。西洋文明を打倒し、世界は中国(チョンクオ)の支配下に置かれている。全大陸を治めるのは七帝と呼ばれる7人の統治者(「タン」と呼ばれる)たち。白人は中国人よりも低いものとみなされ、シティと呼ばれる高層建築からなる城市には徹底的な階層社会が築かれている。白人の中でチョンクオの支配から脱したいものたちは変革を求め、宇宙に進出せよというような主張をし、拡散主義者と呼ばれている。拡散主義者はテロによる大臣暗殺など不穏な動きを見せ始める。欧州のタン、李シャイトンの長子ハンチンもまた暗殺され、次子ユアンが次期タンとして浮上、非凡な才が次第に明らかになる。
 また、最下層の「土層」と呼ばれる地域からは創造力に富んだ天才少年キムが見いだされ、拡散主義者の企業家、ベルディチェフの保護下にはいる。シャイトンの忠臣トローネンはハンチン暗殺の犯人を突き止める。しかし、シャイトンは静観せよと命令。しかし命令に背いたトローネンは拡散主義者の官僚を殺害する。欧州に大きな変化がおとずれようとしている。
 チョンクオの支配形態はモンゴルの大帝国を想起させる。儒家と道家の考えがごっちゃになってしまっているように感じられるが、特に違和感を与えるほどのものではない。作者はイギリス人。欧米の作家が東洋を描くと時として珍妙なものになることがあるが、本書はそうはなっていない。緻密な世界構築に多数の登場人物のからみあいが満喫できる。イギリス人から見た「東洋」的なものはなにか、大いに興味をかきたてられる。
 大河長編の幕開けとしては十分に読み応えがある。ただ、かなり中身がつまってるので読むのに時間がかかる。残り15冊、楽しみながら読み進めよう。

(1999年3月22日読了)


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