舞台は22世紀の大阪、そして上海に月。主人公は高級娼婦のエリコ。彼女はもともと男性。無免許医寺尾の手により性転換手術を受けて女性になった。それは、自分の本来の性が女性であるという意識があり、女性になることによって自分というものを確立するため。大阪府警の頸木刑事の依頼を受けある売春組織に潜り込むエリコだが、そのために警視庁の愛甲に追われる。エリコの身柄を確保したい組織は彼女をさらって上海に連れていく。そこで彼女が出会ったのは結社の親玉とその複製。なんとそれはエリコの遺伝情報を元に作り出されていて、男性時代の彼女と同じ姿をしている。親玉ローは新しい体を手に入れても老化を防げないので、寺尾医師も拉致していた。ローを倒し、自分の孫クローンにあたるワイレンが結社をまとめることになる。
寺尾医師は官僚弘田氏の日本人遺伝子改造計画に加わっていたことがあり、物語後半はエリコと弘田氏の戦いに。エリート意識が高く、国家のためには個人の意志を犠牲にしても当然という弘田氏とアウトサイダーであるエリコの対比に注目したい。
エリコは弘田氏の弱みはその家族にあるとみて、弘田氏の妻、そして子どもから遺伝子情報を取り出し、弘田氏を再製する試みに身を投じる。
主人公が高級娼婦ということでえっちなシーンが次々と出てくるが、実はあまりやらしくない。これは性交の描写がかなり即物的だからだろう。作者は性交というコミュニケーションのバリエーションを書き尽くし、性交そのものの意義を問うているかのようだ。
常にエリコに危機を背負わせることによってかなりサスペンスフルな展開になっていて、一気に読ませる。実に面白かった。
(1999年5月3日読了)