雪風が帰ってきた。「戦闘妖精雪風」(ハヤカワ文庫JA)の15年ぶりの続編である。
〈ジャム〉と呼ばれる不可知の敵と戦い愛機雪風から放り出された深井零中尉が意識を取り戻したところから物語は再開される。
地球人たちは〈ジャム〉の侵略を絵空事のように思うようになっている。そういう意味では零たちは孤独な戦いを強いられているのだ。また、〈ジャム〉が戦いの相手として認識しているのが実は零たち人間ではないという設定も秀逸。敵の目的も正体もわからない上にその敵が戦っているのが自分たちでないということになると、人間にとって戦争はどのような意味を持つのか。
〈ジャム〉の正体を分析するために派遣された精神分析の専門家フォス大尉の存在はそんなわけのわからんものと戦うことの意味を探る手がかりとなるだろうし、情報軍から派遣されてきた桂城少尉は深井中尉の鏡として孤独な戦いを続ける戦士たちの存在意義を問い直すきっかけになっている。
そして、意志を表現するようになった雪風と深井零の関係の変化が物語にさらなる深みを与えている。人間と機械の関係ということを作者はこれまでも様々な角度から照射してきたわけだが、本作ではさらに人間の存在意義や機械の存在意義も問うているというように感じられた。
とにかく、ラストがいい。嘘はつかない、ラストシーンを読むためにこの本一冊読んだっていいと思うぞ。知的エンタテインメントの本道をいく傑作でありますぞ。
(1999年5月9日読了)