松竹新喜劇の育ての親であり、館直志の名で数多くの名作台本を残した喜劇俳優、二代目渋谷天外の生涯を、死後に発見された日記や彼をとりまく人々の証言、そして多数の文献をもとに、多面的にとらえなおした労作。
天外の求めた「喜劇」は大阪の伝統芸能である俄とは違う、多分に新劇や海外の喜劇などの影響を受けた洗練されたものであったことを明らかにし、藤山寛美が松竹新喜劇を俄に戻していった理由やその間の事情など、大阪喜劇の変遷が浮き彫りにされていく。
天外その人を語ることが、同時に「喜劇論」となっていくのが実に興味深い。
私などは松竹新喜劇というと藤山寛美時代しか知らない。しかし、本書を読んで、天外と寛美が丁々発止していた黄金時代の舞台を生で見たくなった。
寛美について書かれたものは割と多いが、渋谷天外について書かれたものは意外にないので、文庫という形で手に入りやすくなったことは、天外の再評価という意味でも喜ばしいことだろう。
(1999年5月27日読了)