読書感想文


クロノス・ジョウンターの伝説
梶尾真治著
ソノラマ文庫NEXT
1999年6月20日第1刷
定価552円

 書き下ろしを加えて文庫化したものだそうだが、私は全て初読。文庫化の際に書き下ろしを加えるというのは、単行本を買った人の方が損してるみたいであまり好きではないのだが。
 過去に戻れるが、その時間にいられる期間が限られており、戻る際は反動でもとの世界よりもさらに未来に飛ばされてしまうというタイムマシン〈クロノス・ジョウンター〉をめぐる甘く切ない純愛物語が3編収録されている。
 第1作の「吹原和彦の軌跡」のみ救いがない。後の2本は非常にきれいにまとめられている。その手際の良さを賞賛すべきなのだろうが、ここまで毒がないと私はかえって居心地が悪かった。〈クロノス・ジョウンター〉の設定は秀逸であるしどの作品もその設定をうまく生かしてはいるのだ。しかし、この欠点だらけの機械のその欠点を逆手にとってきれいにまとめるよりは、欠点をとことん描きぬいてもよかったのでは。実際、第1作はそういう感じで実にやりきれなく、そこがよかったなあと思う。
 作品のできは決して悪いわけではないのだが、読み手によって好き嫌いがかなりわかれるのではないだろうか。そんな気がした。

(1999年6月19日読了)


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