古代史を舞台に、薄幸の王子二人の運命を少しセンチメンタルに綴った佳作。ただし、伝奇的要素は一切ないが。
この作者は前作では奈良時代の藤原永手というあまり歴史の表舞台に登場してこない人物を主人公に選んでいた。本作は大和時代の清寧天皇とその異母弟というこれまた古代史では影の薄い人物を主人公に選んでいる。盲点というのか、好きですなあというのか、記紀でもそれほど多くを語られていない人物たちに新たな生命を吹き込む手腕はなかなかのもの。このまま順調に書き続けていけば、この作者は大化けして古代史小説の書き手として大成するかもしれない。現在はまだ少女小説の大枠を破るほどのものは書けてはいないのだけれど。
(1999年6月27日読了)