「昔は家庭でしつけをちゃんとしていた」という言説の間違いを、明治から戦前、そして戦後から高度経済成長期、現在に至るまで、それぞれの時代に実施された調査を踏まえて正していく。
かつては、しつけは家庭の役割ではなく地域の共同体が担っていた。高度経済成長期に起こった産業構造や社会状況の変化により、地域から学校に役割の担い手が変わり、それが家庭へと移っていく。その様子が資料をもとに示されていく。
現在では、礼儀正しく、そしてのびのびと育ち、学業も優秀というような「パーフェクト・チャイルド」を育てたいという願望が家庭のしつけにより強いプレッシャーを与え、親や子供を追いつめてしまうことがあるのではないかという問題提起がなされる。
統計的資料は充実していて説得力もあるが、現状分析については、家庭や学校の現場を十分に見聞しているかどうか疑わしい部分もあり、首を傾げざるをえない決めつけもなくはない。
とはいえ、本書は「しつけ」と「教育」の変遷を綿密にたどり、「しつけ」というものについて考える手だてのひとつとなるものだろう。
(1999年7月9日読了)