読書感想文


宇宙救助隊二一八○年
宇宙年代記全集1
光瀬龍著
角川春樹事務所ハルキ文庫
1999年6月18日第1刷
定価940円

 人類が宇宙に進出し、太陽系の惑星や衛星に都市や基地を建設し、その生を営む。その過程で人知れず死にゆく者、歴史に名を残すことなく、しかし歴史の礎となった者などの姿を描く。
 言い古された形容かもしれないが、歴史や宇宙の茫漠たる流れや広大さが本連作の主人公である。ここで描かれる人間たちは点景に過ぎないのだ。しかし、それが歴史の一場面を切り取ったものであればこそ、その切り取り方に作者ならではの死生観が浮き彫りにされるのだ。歴史を形作るのは無名の者たちなのだ。
 それを、宇宙を舞台に描くことによりちっぽけな存在に過ぎない人間たちはかえって矮小化されることなく壮大なドラマの主役となる。
 このような世界を構築しえた作者が日本SFの草創期にいてくれたということに、われわれは感謝しなければならないと、読み返してみて強く感じた。
 未読の若い読者には作者の死とは関係なく手にとってもらいたい。決して古びることなく輝き続けるこの作品群を。

(1999年7月12日読了)


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