第4回角川スニーカー大賞優秀賞受賞作。もちろん、デビュー作である。
15世紀のヴェネツィアを舞台に、魔術師たちの攻防を描く歴史ファンタジー。
ヴェネツィアの拡大政策は地中海周辺諸国をおびやかし、ミラノ公国がヴェネツィアの軍門に下る形で和平条約を結ぶことになる。和平交渉を前にして、ヴェネツィアの貴族たちが次々と変死をとげる。この連続殺人の犯人は、屍人たち(いわゆる〈ゾンビ〉)であった。
エジプトでの修行を終えて呼び戻された魔術師ミカは、屍人を操る魔術師やその裏で動くミラノ公の正体を探る。
実は私はこの時代のイタリア史には明るくない。それでも、本書が史実をよく調べて書かれていることが描写の端々からうかがえた。虚実ないまぜになった展開など、新人ながら優れた構成力である。人間関係がややこみいっているが、そこらあたりもよく整理された書き方で説明に偏しない。
有望新人の登場である。急がずあわてず順調に伸びていってほしいものだ。
(1999年7月20日読了)