気鋭のノンフィクション作家が、三原脩という野球人を通じて、組織と個人の関係を鋭くえぐる。読売というプロ野球を私する機構に対し、西鉄ライオンズという一地方の弱小球団を最強チームにすることによって、企業の看板ではないファンのためのプロ野球というものを三原は具現化して見せた。しかし、時代は流れ、親会社の西鉄は経営の方針を転換する。三原は自分の理想を現実にするために、大洋ホエールズ、近鉄バファローズ、ヤクルトアトムズと弱小球団を渡り歩き、チーム強化を果たしていく。しかし、必ずそこには野球に対する理解のない経営者が立ちふさがる。新しい球団、日本ハムファイターズの球団社長に就任した三原は球団経営を現場出身の野球人がすべきであるという理想を、ここでも実現させる。しかし、ここでは「江川事件」などでかれに立ちふさがる「読売」という存在があった。
結局三原は志半ばで球界を去ることになるのだが、理想を合理的思考で現実のものとしていく期待の人物像が数々の証言から浮き彫りにされていく。また、戦中戦後の野球史をとらえた上でその背後にある昭和という時代を描いてもいる。
西鉄ライオンズを買収したのが「太平洋クラブ」そのものであるという事実誤認などが散見されるものの(実際は「福岡野球会社」という新会社が買収し、太平洋クラブやクラウンライターはスポンサーになっただけ)、実にきめ細かい取材で新事実も明らかにしており、今後野球史を語るときには避けて通れない著作であると感じた。
(1999年7月18日読了)