夢の宮シリーズ第12弾(14冊目)。
鸞王の、腹違いの二人の王子が主人公。病弱な兄と快活な弟という組み合わせである。病弱の兄を助け、兄が即位したら家臣として助けようと弟は考えている。しかし、弟の母は他国の王女であったので、息子が王に即位すべきと考え、野心を抱いている。その野心を弟は次々と否定。母はついに王に即位した兄の方を殺そうとしてしまう。狂いはじめる運命の歯車。弟はささやかな願いを次々に断たれ、やり切れぬ思いを兄に向けるようになる。そして、兄とその妃たちを皆殺しにし、王位を手中にしようと企む。
弟が不幸になっていく過程、兄の善意がかえって弟を追い込んでいく、その心理など、話の運びが実にうまい。これでもかこれでもかと一人の男を不幸にしていく容赦のなさは、前巻にも見られたものだ。おそらく下巻では、王に即位した弟がさらに不幸になるのだろう。それでいて、やりきれない思いにならないところに巧みさが感じられる。
それにしてもこの兄だが、巫女に運命を予言されて、このようになることを知っていたのだ。ならば弟に教えてやればいいのにと俗人である私は思うのだが。そのせいで弟は不幸街道をまっしぐらだ。この兄、善意の人でありながら、最もひどい人物かもしれん。
(1999年7月28日読了)