読書感想文


月と炎の戦記
森岡浩之著
角川スニーカーブックス
1999年7月25日第1刷
定価840円

 古事記に材を取った、作者には珍しい神話ファンタジー。
 アマテラスが天の岩戸にこもって世の中が闇に包まれている間、地上では闇の世に生きるものが人々を苦しめていた。少女カエデは里の者から追われるようにしてミズチ退治に旅立つ。彼女は月の神ツクヨミを召還しなければならない。口をきく熊に襲われたカエデがツクヨミを口汚くののしると、嫌そうに登場。この神は人間のことなどなんとも思わずミズチ退治などやる気もない。しかし、カエデの勢いに押され、結局退治におもむく。そこでツクヨミを待ち受けていたのは火の神カグツチであった。
 目のつけどころがよい。国生み神話のはじめに父イザナギに斬り殺されたカグツチ、アマテラスとスサノオにはさまれて神話ではあまり活躍の場のないツクヨミ。この両者はあまりポピュラーな神でないだけに、思い切ったキャラクターづくりもできる。また、神々の性格づけも、人間を導く仁慈の神ではなく自分たちのことばかり考えている。神でない者への差別意識などを強調し、日本の神が本来畏怖の対象であったことを思い出させる。
 つまり本書は作者が実に誠実に古事記の神と向き合い、神話を再構築したものとさえいえよう。
 むろん、ストーリーの展開やキャラクターの性格づけなど、見るべき点は多い。今後もこのジャンルにどんどん挑戦してほしいものだ。

(1999年7月30日読了)


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