江戸時代から明治時代にかけて新作落語を次々と発表、その速記本は言文一致体の手本となり、名人上手とうたわれた三遊亭圓朝の生涯をたどりながら、明治という時代をとらえ直す。また、時代の動きとともに変化していく藝のかたちをも問い直している。
明治という時代に、東京という都市で何が失われ、何が生み出されていったのか。著者はそれを、落語家と落語、藝人と藝を素材に独自の視点から描き出している。藝人、そして藝を長く追い続けてきた著者ならではである。
特に、江戸時代をどこかに引きずり続けた圓朝と、明治という時代を的確にとらえて新たな藝を生み出した弟子の三遊亭圓遊との対比により、いっそう明治という時代をつかむことができるようにしてある。
一度は引退した圓朝が久々に高座に上がったのが大阪であったというところなど、明治時代の東京と大阪の位置づけを考えるヒントにもなるだろう。
明治という時代、まだまだ切り口次第でいろいろな面を見せてくれる。そう感じさせる好著である。
(1999年8月9日読了)