ティックは葬祭社団ヨミ・クーリエ社に所属する新米の葬祭司補。大国の気まぐれで起こった宇宙戦闘の犠牲者の遺骨を、ゴミ捨て場にして民間信仰の聖地、惑星ペリペティアに散灰しに行く。ところが、その途上でなんと彼は司教代理に任命されてしまう。ペリペティアには伝説の銀河皇帝フォークトの墓があることがわかり、その葬儀を執り行わなければならないのだ。フォークトの遺体からDNAを取り出しクローン培養した臓器を権力者に売ろうともくろむ医療法人ゲルプクロイツ社は、3人の女博士をペリペティアに派遣し、ヨミ・クーリエ社に主導権を握られないように司教の命を狙っているのだ。ティックは体のいい身代わりである。
彼を護衛するのは戦闘尼キャル。彼女はゲルプクロイツ社の実験材料として培養された12体のクローンをヨミ・クーリエ社が救出し手術でつなぎ合わせられ生を得たという境遇。12の人格を1つの体に住まわせている。
ティックは、フォークトの後継者と目されるペリペティアの先住民の少女ファンランと出会う。純粋無垢なファンランをめぐりヨミ・クーリエ社とゲルプクロイツ社の暗闘が始まる。
宇宙を舞台にした戦闘ものは数あれど、その犠牲者を弔う立場から描かれたという点で本書は実にユニークな作品となった。派手な戦いの影に必ず出る犠牲者に対する細やかな心情が伝わってくる。死者をモノとして扱うか、人として扱うかという倫理上の問題提起は、現代社会にもあてはまるだろう。
果たしてファンランはフォークト大帝の後継者なのか、彼女を味方につけ主導権を握るのはどの勢力なのか。次巻以降の展開が楽しみである。
(1999年8月13日読了)