「カニス」とはラテン語で犬のことをさす。本書は、犬と同質の嗅覚を持つ男が主人公。匂いから人の感情や人間関係まで読みとる彼が、ある夜酒場で出会い、関係を持った美貌の女性。その女性が山中で自殺。匂いからその死に疑問を持った主人公は、独自に調査をする。彼女は彼の友人の元婚約者であり、その友人は1年前に自殺をしているのだ。警察では、頑固者の刑事が主人公を犯人と疑い、その動きを追う。
主人公は、死んだはずの女性から命を狙われる。刑事と謎の女性の二人に狙われながら、彼がたどり着いた真相とは。
匂いに関する描写がこの作品の成否の鍵を握っている。ミステリとしては特に目新しいわけではなく謎の女性もその神秘性がはぎ取られていくのにしたがって魅力を失ってしまう。それだけに、本書での匂いの描写のうまさ、追跡と逃亡のシーンの運びのよさが本書の見どころといえる。特に、徹頭徹尾匂いを中心にすえたストーリー展開には作者のただならぬ感性を見せてもらった。
ファンタスティックなデビュー作とは一転してサスペンスタッチの本作をデビュー第2作として上梓したことで、作者の芸風の幅広さというものを感じさせた。
(1999年8月21日読了)