読書感想文


電脳祈祷師 邪雷幻悩
東野司著
学習研究社 歴史群像新書
1999年8月11日第1刷
定価1100円

 「電脳祈祷師美帆 邪雷顕現」に続く待望の続刊。
 続出する感電自殺者、無償配布されるベンチャー企業による新しいOS、〈邪雷〉による陰謀が若者たちを浸食していく。電脳祈祷師、鵜飼美帆は、事件の背後にいる自らの分身、〈邪雷〉にとりこまれた鵜飼志帆を倒すために故郷に戻り、志帆と同じ力を得ようとするのだが……。強大な力に圧倒される美帆。〈邪雷〉を倒す大きな力をもつ〈紫電〉の覚醒を前に、美帆は志帆との最後の対決に臨む。
 一気に読ませる傑作。本年の収穫のひとつである。
 鍵はいくつかある。まず、〈邪雷〉。人間に電気をもたらし、人間の情報を記号化して取り込もうとしてきた存在。対する志帆や美帆はそれを防いできた一族。電気、電波などの人間社会における位置づけを作者独自の視点で小説として表現しているのだ。
 そして、「孤独感」。引きこもり、インターネット、携帯電話、通信カラオケなど現代社会にある様々なキーワードを「孤独感」を軸にとらえている。
 精緻なストーリー展開の中で、これらがからみあいながら読み手に提出されるのだ。むろん、優れたエンターテインメントとして、である。
 前作を読んでなくても楽しめる。ご一読あれ。

(1999年8月25日読了)


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