ナチスドイツとクトゥルー神話を融合させた傑作短編集。
連作ではあるが、共通の主人公がいるのではない。あくまで「ナチス」と「クトゥルー」を共通したテーマとして描くということに徹している。ナチスが魔術的なものを戦略にとりいれ、その魔術が呼びこんだ邪心によって滅ぼされていくという流れをまるで歴史小説であるかのように読むことができる。史実と虚構が融合し、まるで真実がそうであるかのように錯覚してしまう。ホラー小説というよりは、私は伝奇SFとして楽しんだ。
クトゥルーものは苦手という人でもその点は特に気にせずに読むことができる。そういう意味では、朝松作品の集大成的な意義をもった短編集といえるのではなかろうか。
(1999年8月25日読了)