未来の地球で、アフリカのキクユ族の伝統が消えていくことを危惧するコリバは、植民惑星に移住し西洋文明に毒されていないキクユ族のユートピア〈キリンヤガ〉を建設しようとする。当初は目論見通りにいくかと思われていたユートピア建設も、世代交代の末に若い住民が新しいものを求め始める。情報を統制することでこれを抑えようとしたコリバだが、ついには自らキリンヤガの地を去ることになる。
非西洋文化の伝統と西洋文明の葛藤を描いた寓話として読むこともできる。どんなに理想を高く掲げていてもそれを他人に押しつけることはできないという教訓話とも読める。頑固爺さんの栄光と没落の物語ということもできる。
外部から美化した土俗文化の賛歌かと最初は思ったが、コリバの失敗を段階を追って書き込んでいくところなど、単純にそうとは言い切れない。土俗文化のユートピアを、西洋文明の最先端といえる植民惑星で実現しようとしているあたりの矛盾、そして、ついには故郷の、本当のキリンヤガで迎えるラストシーンあたりに本書のテーマが象徴的に表されているように思う。
連作短編集としても、書く作品の出来不出来の差が少なく安定した筆致で読ませる、実によくできた一冊である。
(1999年8月28日読了)