「メタル・アイ症候群」という奇病の結果、超能力を得た女性、鈴川鮎。彼女は過去の「音」が聞こえるという能力があり、その力を利用して京都府警に技官として勤務している。若いキャリア警部補の沖本とコンビを組むことになった彼女は、臓器売買にからむ大病院の疑惑、自殺、殺人、誘拐事件に挑む。
ここのところ「臭い」がキーワードになった小説を2冊読んだわけだが、今度は「音」。着眼点がいい。殺人現場で死者が残した声を聞き、その死者の意識に同調してしまうという、主人公の不安定な自我などの書きこみもよくできている。
しかし、肝心のミステリーの部分の弱さが気になる。途中で主犯の正体が私にはわかってしまった。ミステリーを読むとき、私は自分で謎解きをいっしょにしたりしないから解決部分で初めて犯人が分かるということはしょっちゅうなのだ。その私でも犯人が分かるのだ。むろん、本書は本格ミステリーではない。解決にいたる人々の心の揺れなどを描くことが主眼だ。しかし、だからこそ事件の部分が弱いとせっかくのキャラクターも生きてこないのではないだろうか。
あと、京都を舞台に選んだのだから、少しは会話を関西弁にしてくれへんかしら。生粋の京都人という設定の人が共通語でしゃべってるのは気持ち悪い。私は、読んでいる最中、頭の中で京都弁に変換しながら読みました。そんな時間がかかる読み方をわざわざするか。
(1999年9月9日読了)