漫才「コメディNo.1」の前田五郎は、新弟子時代に手に入れたカメラで、浅草四郎のもとに入門して以来、芸人仲間の写真を撮り続けている。なんと80万枚以上のスナップ写真や舞台の写真が保存されているのだ。それは小樽の「小樽よしもと」なるイベントスペースで公開され、今度は精選された200枚の写真が自伝的エッセイとともに一冊の本にまとまった。
過去の人気芸人から、現在の売れっ子が下積みであった時代、そして現在の姿などが生き生きと映し出されている。著者が「芸人」そのものとその人となりを好きでなければ、これだけの写真は残っていなかっただろう。
楽屋でくつろいでいる中田ダイマルのリラックスした表情、タバコをすう先代林家小染になにやら拝んで頼む中田カウスのなんともいえない顔つき、女装の二代目桂枝雀など。楽屋で、舞台で、劇場の裏で、打ち上げの宴席で、カメラを前にポーズをとる者も何気ない姿を写された者も、その時でなければ見られない様子が本書には残されているのだ。
むろん、著者はカメラのプロではない。しかし、芸人ならばこそ相手の芸人も安心して素顔をカメラの前にさらすことができたのだろう。それほど貴重な写真が多いのだ。
資料的価値というよりも、芸人たちが生きてきた証、というべきだろう。
(1999年9月9日読了)