「旅」のSFをあれこれ読み返している。
主人公ラゴスのいる世界は、宇宙船によって移住してきた人間が新たに作り出したものであるが、文明を活用するすべがなく、保存はされているが伝えられてはいない。忘れられた文明を追い求め、ラゴスは北方から南方へ、そしてまた故郷へと旅をする。奴隷商人に売り飛ばされ、王国を築き上げ、その王位を捨て……。ラゴスの波瀾万丈の旅を淡々とした筆致で描く。
転移、壁抜けなどSF的なアイデアが用いられているからSFというのではなく、ラゴスの旅の目的それ自体がSFならではの文明批評になっているというところに注目してみたい。
また、この物語のタイトルが「旅のラゴス」であって「ラゴスの旅」でないことにも注目すべきだろう。主人公のラゴスは特に個性豊かな人物であるようには描かれていない。主体はあくまで旅の過程にあり、ラゴスは狂言回しに過ぎないのだ。
「旅」を描いたSFが多くある中で、「旅」の意味合いの最も重い作品といえるのではあるまいか。
(1999年9月22日読了)