読書感想文


狂骨歌 神咒鏖殺行 巻之壱
嬉野秋彦著
角川スニーカー文庫
1999年9月1日第1刷
定価533円

 新シリーズの開幕。和風異世界ファンタジーである。作者が書きたかったのは、痛快剣豪小説だったのだろう。それにはすでに色の付いている剣豪よりも自らが作り出した世界で暴れる剣豪の方が書きやすかったということなのか。できれば中途半端な異世界よりも架空の人物を主人公にした時代伝奇小説にしてほしかった。というのは、私の好みだから支持しない人もいるだろうけどね。
 山中の小さな村に隠されていた鉄の小箱をめぐり、様々な登場人物が活劇を繰り広げる。人に勝ち続けることを生き甲斐とする神咒萬嶽、賞金稼ぎの咲弥と綾女の姉妹、西の大陸からやってきた練金物理学士の黒龍斎、その配下で奇怪な技を操る菱百合御前と獅子面のルオー。箱に隠された力の秘密とはなにか。黒龍斎の真の狙いは……。
 理屈抜きにチャンバラを楽しんで下さいという作品なので、そのように読めばいいのだろうけれど、シリーズの構成上隠された謎を解決しないままアクションばかりが続き、箱がなぜそんな山中の村にあったのかすら明らかにされないまま終わってしまうなど、読み手としては消化不良で不満が残る。この手のシリーズは売れ行きが悪いと打ち切りになる恐れがあるだけに、なるべく解決すべきところはその巻で解決してほしいのだ。
 キャラクターは際立ってて面白いのだけれど、必殺技にこれという個性が見られないのも残念なところ。作者は職人芸的に物語を紡ぎ出すタイプだけに、話の流れなどは実にうまいのだが、最近特に独創性でもう一つ物足りないものを感じるときがある。次巻以降、どれだけアイデアを盛り込んでいけるかがシリーズの成否にかかってくるのではないだろうか。

(1999年9月23日読了)


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