政争に敗れ、死後悪霊として伝えられ、祀られた人物たちの評伝集。かつて新潮文庫から2分冊として出ていたものに付記を加え合本として再刊されたものである。
作者らしく、史料を読みこみ、独自の解釈を加えて「悪霊」を合理的に解析している。伝奇小説ファンとしては、そんな読み方もあるかと新鮮な視点を楽しむことができる。平将門の怨霊を例にとると、当時の京都の貴族には全く脅威でもなんでもなく、怨霊として注目されたのは明治以降新政府が天皇中心の政体を確立するために利用したという解釈などがそれである。現在の伝奇アクションではこういう書き方はまずされない。それでは話にならないからである。
ただ、視点はあくまで現代人のものなので、その当時の人々が怖れた「悪霊」への感情などに対する共感など一切ない。そういう意味では、ちょっと合理的すぎて味も素っ気もないといえなくもない。しかし、伝奇小説を楽しむためにはこのような解釈があるということを知っておいた方がいいのだ。絵空事としての伝奇小説の面白さをより深く味わうことができるのである。
(1999年9月24日読了)