「旅」にかかわるSFを読み返している。
米ソ冷戦時代、ミクロ化の技術をめぐって、両国間で競争しているという設定。原著は1966年に書かれたものだけに、さすがに時代を感じさせる。アメリカに亡命させた科学者が命を狙われ、一命はとりとめたものの脳内に血腫ができ、危篤状態。医師とその助手、潜水艇の技師、体内の案内人、そして彼らをまとめる情報部員ら5人のクルーは、1時間の制限内にミクロ化して科学者の体内に入り血腫を取り除かなければならない。
体内の旅という点に焦点を当てて読むと、その描写はイマジネーションをくすぐり、楽しめる。しかし、舞台設定や科学的なアイデアはさすがに古くさく、ストーリーも映画のシナリオが凡庸だったのか類型的な感じを与える。いくらアシモフといえど、ノヴェライゼーションという制約のもとでは限界があったということなのだろう。後に同じテーマでオリジナルの小説を書いていることからも、それがうかがえる。
とはいえ、人間の体内の旅を当時の科学的想像を駆使して描いていることだけは確かで、古典SFとしてなら十分に楽しめる。一度は体内を旅してみたいという気持ちを抱かせるものにはなっているのだ。
(1999年9月27日読了)