腕利きの心理捜査官大滝錬摩は、かつて同僚の藤崎宗一郎を事件の渦中で頭に被弾させた。一命はとりとめたものの、藤崎は脳障害で記憶を失い0歳児から成長し直していて、現在は5歳程度。彼女は宗一郎の母代わりとなり飛騨に隠棲している。一見男性に見える容姿の彼女は、わずかな手がかりから人の生活環境や性格などを割り出すという抜群の分析・推理能力を持つ。
東京では、夕暮れに高層建築物が破壊される連続爆弾事件が発生していた。犯人は「黄昏の爆弾魔(ラグナロク・ボマー)」とあだ名される。錬摩のもとに久々にきた依頼は警察からのもので、「黄昏の爆弾魔」の犯人像をあぶり出してほしいというもの。彼女は少しずつ犯人の姿をつかんでゆく。
並行して描かれるのは犯人自身の行動。わずかな接点で二人が遭遇し、それは新たな爆破事件を呼ぶ。
キャラクターの書き込みが十分になされていて、その人間像に深みが出ている。そして、それはいずれも現代社会で息を詰まらせている人々の苦しみをも描き出している。これら登場人物の行動を緊迫したタッチで展開する。一気に読ませる力のある作品だ。
SFらしいSFでデビューした作者の第2作がサイコ・サスペンス的なもので驚いたが、異なるジャンルのものでもしっかりしたものが書けるという、なかなかの実力ではないか。ところどころにSF的な要素もひそませているあたりが、なんとなく「SFを書きたい」という意思表示に見えて興味深い。いずれヤングアダルトの枠には収まり切らなくなり、一般向けの作品も書くのではないだろうか。SF専門誌で短編を読んでみたいなあ。
(1999年10月19日読了)