著者は「朝日新聞」で8年間「素粒子」というコラムを書いていた。今の「素粒子」の前任者だ。短い字数でものの本質をズバリと表し、皮肉る名人で、その文才には連載時から感心もし愛読していた。
そういう文章の達人による手紙の書き方の本であるから、単なるハウツーものではもちろんない。相手に自分の気持ちを伝える工夫が実にわかりやすく説かれている。古今東西の手紙や、ダイレクトメールの文章まで引用し、書き手の気持ちが伝わる文章とはどのようなものかを読み手に考えさせてくれる。時候のあいさつなどの決まり文句を利用し、それを「換骨奪胎」して自分のものにせよと説く。
伝えたい相手、伝いたい内容をよく考えて書くことが大事だと著者はしつこいくらいに繰り返す。別に誰かに教えてもらわないでもいいよと言いたくなるところまで。それが著者の手にかかると実に説得力があり、自分もうまく手紙を書けそうな気にさせる。達人の真骨頂である。
本書はただ手紙だけではなく、広い意味での文章読本にもなっている。達意の文章とはどういうものかを教えてくれる一冊。
(1999年10月21日読了)