読書感想文


宇宙消失
グレッグ・イーガン著
山岸真訳
創元SF文庫
1999年8月27日第1刷
定価700円

 2043年、夜空から星々が消えた。この〈バブル〉現象の33年後のオーストラリアにある新香港が舞台。元警官のニックが受けた依頼は、病院から消えた障害者の女性の行方を探ることだ。脱出不可能な病室から、障害のある彼女がどうやって消えたのか。
 彼らの脳にはナノテクで構築された制御モッドがあり、このモッドを書き換えられて〈アンサンブル〉という団体に忠誠心を持った彼は、謎の実権をする女性の護衛という任務につく。ここで彼が経験したことが彼を変化させ、彼は彼のうちにある真の〈アンサンブル〉を求めはじめる。
 宇宙が人間の前から消えてしまうというアイデアにゾクゾク。ナノテクにより人間の脳内にコンピュータが構築されていることや、その指令に逆らえない自分はいったいほんとは何者だと問いかけるところにゾクゾク。量子力学を使って、自分という存在を拡散させ、数多くに増えた自分のうち、最良の結果を残した自分に収縮していくという、いわば自分で未来をどうにでもできるという設定にゾクゾク。一つに収縮したら、拡散時にいた大量の自分が殺されてしまうという、主人公の抱く罪悪感にゾクゾク。SF者の心をゾクゾクさせる要素がいっぱいつまっている。
 ストーリーの展開のさせ方はお世辞にもうまいとはいえないし、常に登場人物が説明を延々としているあたりはいささか退屈であったりはした。しかし、それを上回る豊富なアイデアで読み手を圧倒する腕力の強さは称賛に値する。
 ああ、SFを読んだなあと実感させてくれる一冊であった。

(1999年10月26日読了)


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