作者の新作は久しぶり。この間に出産などを経験したとあとがきにある。それが作風にどのような影響を与えているのか、興味を持って読んだ。
中国の戦国時代、秦が周都を滅ぼす場面から物語は始まる。周都を陥した武将、黎燎は、宰相の呂不韋の腹心で「鉄冠子」とあだ名される冷徹な男。しかし、彼は燃える周都で周の公女、琳姫と出会い、その美貌に魅せられたところから、運命は変わっていく。秦都へ護送する途中、洪水から姫を救うなどの事件を経て、黎燎は琳姫への恋心に気がつく。しかし、彼女が秦王の側室となることや、彼が王の息女を正妻として迎えることなどが呂不韋により決められていた。シナリオ通りに動いていくことへの疑問と、自分の生き方について悩み苦しむ黎燎。
軟禁されていた琳姫は賊にさらわれ、黎燎は現在の地位か恋か、どちらをとるかという事態に直面する。
これまで作者の描いてきた、自己主張の激しい少女たちと、ここに登場する一途に主人公を想う琳姫は、一見、対照的に見えるが、自分に正直に生きていくという本質は同じである。心の奥に秘めた強さとして、そのような本質を描くようになったところに、作者の新しい女性に対するスタンスが現れているように感じられた。
続編も予定されているようなので、新生・藤水名子の今後に注目していきたい。
(1999年10月27日読了)