読書感想文


アナベル・クレセントムーン 呪痕の美姫
中井紀夫著
メディアワークス 電撃文庫
1999年9月25日第1刷
定価590円

 中井紀夫の久々の新作は、なんと正統派(?)の異世界ファンタジー。
 小さいが平和な国、スカーレットロックの城下町に、マリー・ルナと名乗る美しい女剣士が現れる。水を操る魔法使いレオンは彼女に関心を持つが、簡単にあしらわれてしまう。そのレオンは、国王の親衛隊長ペイルスキンの依頼を受けて、町を流れる川の水を凍らせる。王に反旗を翻したペイルスキンの手から逃れた王子は、凍り付いた川の上で捕らわれ殺害される。いっしょに逃げてきた王女アナベルはペイルスキンの呪いを受け、その印として額にサラマンダーの形の痣をつけられる。石工グレイブヤードに助けられたアナベルは呪いを解くために龍の住むドラゴンマウンテンを目指す。彼女を追うレオンは王女アナベルが実はマリー・ルナであることを知り、ペイルスキンを裏切ることにする。ドラゴンマウンテンに秘められた魔法を解放する黄金の機械の正体をめぐり、アナベルとペイルスキンの戦いが始まる。
 物語の展開や謎の解明など、さすがにうまい。一気に読ませる。しかし、作者にしては食い足りないと思ったのも事実だ。なぜ、今、あの中井紀夫がこういった勧善懲悪の異世界ファンタジーを書かねばならないのか、そこが私にはわからない。むろん、ヤングアダルトのファンタジーという視点で見れば、水準の高い作品であるのだが……。特に中井紀夫でなくても、と思うのは私だけだろうか。
 表紙にクレジットされている作者の名前と、「イラスト/いのまたむつみ」の字の大きさは全く同じ。つまり、いのまたむつみが絵を描いているということで本書を手にとるであろう読者を対象にして書かれた作品ということなのか。そういう扱いを受ける作家だとは思わないのだが。

(1999年10月31日読了)


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