読書感想文


天魔の羅刹兵 一の巻
高瀬彼方著
講談社ノベルス
1999年10月5日第1刷
定価880円

 種子島から伝来したのが鉄砲ではなく人間が乗り込むロボット兵器だったら……という設定で描く異色の長編歴史小説の開幕である。
 鈍重な動きしかできない羅刹兵(ロボット兵器のこと)に、人の意志に感応する電脳が組み込まれる。これを駆使するのは織田信長の軍。長篠の戦いでは羅刹兵の働きにより武田軍を敗走させる。ただし、電脳を動かせるものは限られていて、織田軍では柴田勝家と明智光秀のみ。しかし、長篠の戦いの最中に、武田の足軽、穴山小平太の前で羅刹兵は動きを止めた。小平太は羅刹兵乗りとしての能力を見いだされ、織田信長に召し抱えられる。農民出身で小心者の小平太は、人を殺すことを恐れ戦いに際して悩み苦しむ。小平太のなすべきことは何か。
 戦国版「機神兵団」といった趣がある。また、小平太は「機動戦士ガンダム」のアムロを思い起こさせる。そういう意味では決して斬新なアイデアというわけではないが、史実に即して描かれる羅刹兵の活躍や時代に合わせたテクノロジーの設定など、独特の味わいを持たせている。
 著者はカバー見返しで「いわゆる『架空戦記』ではないのです」と明言している。確かに歴史改変がなされないという点においてはそうかもしれない。が、「架空戦記」がジャンルとして成立し始めた頃に、こういう形のものが出てきてほしいと私が願っていたタイプの作品なのだ。史実に異質な要素を織り込んで、独自の歴史解釈を示すというタイプの。だから、私は本シリーズの今後に期待したいし、これに続く同タイプの「架空戦記」が続いてくれないかと思うのである。

※京極夏彦の推薦文「誰もが思いつくというのに、誰にも書き得なかった」や今野敏の推薦文「あ、この手があったか」はちょっと大げさではないか。作者には関係ないことだけれど。

(1999年11月2日読了)


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