読書感想文


クリスタルサイレンス
藤崎慎吾著
朝日ソノラマ
1999年10月30日第1刷
定価1900円

 これがデビュー作とは信じられないと思ったら、作者はファンジン大賞受賞歴を持ち、長らく「宇宙塵」で書いてきた人だそうで、それならレベルの高さもわかる。あら、1962年生まれですか。またぞろ同い年のプロが登場してきたぞ。
 2071年の火星が舞台。北極冠から発掘された高等生物の死骸がどうやら何者かの食べたあとのものだと考えられ、その調査のために縄文時代を研究する考古学者のサヤが派遣される。彼女にはケレンという恋人がいて、彼とは彼女の作ったプログラム「クリスタルサイレンス」をきっかけに知り合っていた。その恋人とも別れ、火星で調査をするサヤ。しかし、その都度妨害が入り生命の危険にさらされる。彼女の命を救った男たちにはケレンの面影が重なる。
 火星の利権などとからんで、常にこの妨害の影にいる富豪、ツカダの真の意図とは……。そして、ネットワークをフルに使ってサヤを助けるケレンの正体とは……。
 ヴァーチャル空間と現実の空間をリンクさせながら、そこに様々なアイデアをつぎこみ、イマジネーションを広げていき、細かな要素を一つの大きな流れに収斂させていく作者の筆力に圧倒された。特にヴァーチャル空間を視覚化していく手法などに並々ならぬ力量を感じる。
 未整理の部分もままあるが、そんなことはどうでもよいと思わせるだけの「力」を持った作品である。これだけの壮大な物語がデビュー作となると、次回作が大変ではないかというつまらぬ心配までしてしまう。短編なども読んでみたい。今後が楽しみな新人である。
 SFファンのあなた、読みなさい、そして唸りなさい。

(1999年11月6日読了)


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