明治のはじめに出された「華族令」で、公卿、諸侯、維新の功労者たちに爵位が与えられ、特権階級が誕生した。著者は史料をフルに使い、どのような爵位が誰に与えられ、そこからどのような問題が生じていったか、そして結局この制度がそれほど明治から戦前の政治で役に立たなかったかを検証している。
最初の受爵では、一般に思われているほど情実は通らず、定められた基準通りに爵位が与えられていたのは、私には意外であった。それに不満があったり実状にあっていなかった公卿や諸侯は後日爵位のランクを上げることで対応していったのだが、それにまつわる裏話などもきめ細かく描き出されている。
天皇という権威を利用して成立した新政府だけに、保守的な公卿たちの不満をいかにしてそらしていくかというのが、明治時代当初の課題であったことがわかる。それは明治維新自体のはらむ矛盾でもあったのだろう。
近現代史を語るときに、つい「華族」は見逃してしまいがちだが、これを検証することにより、新たな視点から明治政府を論じることができるということを示した労作である。
(1999年11月29日読了)