戦前の山中峯太郎らの冒険小説に描かれたユダヤ人、日ユ同祖論の歴史、そしてドイツなどにはびこる「ネオ・ナチ」の動きや日本でのトンデモ本まで、「ユダヤ陰謀説」に関する言説を詳細に紹介している。その上で「ユダヤ陰謀論」がなぜ日本にまで広まっているのかということを検証する。
著者によると、インターナショナルな動きとナショナリズムがぶつかるところで、ナショナリストたちがインターナショナルな存在の象徴としてとりあげやすいのがユダヤ人であり、これを排斥することで自らのナショナリズムを正当化するというようなところがその理由ではないか、ということになる。ただ、そういう結論がでる過程をあまりくわしく書いてないというところは若干気にかかる。この分析が正しいかどうかは私にはちょっと判断できないところがあるのだが、数多くの言説を紹介することによって「ユダヤ陰謀論」の実態を把握するのには便利な本だということは確かである。
なお、著者が批判するのは、ここから派生するファシズムであり、閉鎖的なナショナリズムもその文脈で語られている。
(1999年12月15日読了)