主人公はこれといってとりえのない高校生の女の子、柊夏菜。ところが、何者かが彼女の命を狙うところで物語が動き出す。彼女を狙うのは陣内悟と名乗る若者。そこに米軍のチームや幽霊屋敷に住む貴公子など、これまでの彼女の生活には関わりのない人々がからんでくる。
悟によると、彼と夏菜の間には古代からの因縁があり、転生を繰り返しているという。どちらかが相手を殺さなければ2人にかかった呪いは解けないというのだ。5000年の記憶を受け継いでいる悟に対し、そのような記憶は全くない夏菜。実は、悟は5000年の記憶に押しつぶされそうになり、夏菜の手にかかって滅ぼされることを望んでいたのだった。
呪い、転生は遺伝子のコピーを移植した結果だとするアイデアはなかなか面白い。しかし、そのメカニズムに関する説明がほとんどなされていないので、せっかくのアイデアも単なる道具にしかなっていない。ここらへんを書き込むと輪廻転生SFの傑作になっただろうに。もったいない。
また、平凡な女の子が非日常的なものに巻き込まれていくというストーリーにするなら、もっと日常生活の描写をたんねんに行うべきだろう。学校での様子はともかく、家族のことがほとんど描かれていない。これでは非日常と日常の転換にメリハリがつきにくいと思う。主要な登場人物しかこの世界では生きていないという印象を受けるのだ。
下巻で夏菜と悟の関係や彼らの秘密を解き明かしていくことになるのだろうが、どこまでアイデアが生かされるか。
ところで、夏菜は都立の高校に通っていることになっているのに、なぜか「理事長」なる人物がそこの学校にはいるのだ。公立の学校に理事長はいない。理事長を出したかったら学校は私立にすべきだった。私立校と公立校のシステムの違いくらい、ちょっと調べたらすぐわかることだろうに。
(1999年12月19日読了)