第6回日本ホラー小説大賞長編賞佳作受賞作品。
児童虐待相談員で保健婦の秋生は、虐待に関する相談を多数受ける中で知りあった女性から、夫が何者かに取り憑かれたようになって仕事も家庭も顧みなくなったという相談を受ける。関心を持った彼女は、その女性の夫の隠れ家であるマンションを訪れる。そこには甘やかな独特の匂いと、子どもの玩具や大量の菓子があった。そして、天井裏にちらりと見えた乳児らしきものの手。
虐待から保護した子どもの、その実の父親に屈辱的な暴行を受けた心の傷も癒えぬうちに、今度は秋生の上司の様子がおかしくなる。真相を知っているという老人と出会った秋生が探り出した事実とは……。
児童虐待という現代的な問題を軸に、母性本能、可愛らしさの向こうに透けて見える恐ろしさなどを著者は見事にイメージ化してみせる。一気に読者を引き込んでいく力のある小説であり、途中でページを閉じることができなかった。
残虐シーンもそこだけ切り離して論じるべきものではなく、作品の構成上欠くべからざるものであり、そのために「佳作」となったというのであれば、私は審査員の見識を疑う。
恐怖とは、正体がはっきりしないからこそ恐怖たりうるのであるが、SF的な解釈やミステリ的な解釈をとりいれると、その正体がわかった時点で興醒めになるものだが、本作はその点でも文句なく、最後の最後まで読者を引きつけて離さない。
文句なしにお薦め。まずはご一読を。
(2000年1月1日読了)