ヒマラヤ登山で遭難しながらなんとか山頂にたどり着いた男が、そこに巨大なオウムガイの螺旋を見る。帰国後、彼が山頂で見た螺旋を思い浮かべると「ちりん」という音とともに数秒先の未来が見えるようになる。
彼をつける老人の正体は、また、彼と会いたがる謎の男の目的は……。
単行本で発売されたものに、雑誌掲載された続編冒頭部分をつけ加えて再刊された。未完である。しかし、「神」とは何かという問いかけに、完結はできないのかもしれない。著者はこれまでにも幾度か「螺旋」をモチーフにした作品を発表し、仏教哲学を加味した独特の世界を形作ってきた。本書はその壮大な問いかけの一部分であり、それは切り取られた風景写真を眺めながら想像をふくらませていくという読み方をすべきなのかもしれない。
「上弦の月を喰べる獅子」(ハヤカワ文庫)や「混沌の城」(カッパノベルス)などを読んでいないとちょっとわかりにくいかもしれないが、著者のライフワークの一環としてそれらの作品につながる一冊といえそうだ。
(2000年1月2日読了)