謎の宇宙生物μに取り憑かれた人間が「破壊者(プラスター)」と名付けられ、狩りだされ殺戮される対象となっている世界が舞台。μの能力が発現したら人類を滅ぼす危険性があるというのだ。
自分の姉が「破壊者」として殺された後、その弟だというだけで差別を受ける少年、神荻周防と、もとは「破壊者」を殺すために軍に育てられた、μを体内に住まわせる「ダガー」でありながら殺戮兵器となることを拒み、一人で「破壊者」を助け、正義の名を借りて実は殺戮を楽しむ権力者たちへ戦いの刃を向ける少女、弓真鏡歌が主人公。
二人を追う「国連対異星人攻撃部隊」の鷹月敏江少尉もまた「ダガー」の一人。彼女は、幼なじみの周防を裏切ってでも自分の将来を守ろうとする少女、十崎詩織を利用して、周防と鏡歌を追いつめる。
周防と出会い、”感情”を知るようになった鏡歌と鷹月の最後の対決が迫る。
μの正体を敢えて明らかにせず、悪とみなされる者を主人公に据え、正義とみなされる権力者のエゴを強調しているところがポイントとなる。これにより、鏡歌や周防の孤独感や連帯感が浮き彫りにされ、戦闘に説得力が生まれた。差別されているのが周防一人のような描写であるが、同じような境遇の者は他にもあるはずで、そういう者の存在を匂わすだけでも深みがでたのではないかとは思うが、そういった弱点はあるにせよ、アクション小説の条件をしっかりと備えた一級のエンタテインメントに仕上がっている。別名義での再デビューであるということだが、今後の活躍に注目していきたい新人である。
蛇足ながら、装画はいくらなんでも可愛らしすぎるのではないか。ここはもっと迫力のある画風の画家を起用すべきだったのでは。ヤングアダルト小説の場合、イラストで内容が判断される場合が多いと思うので、一考を求めたい。
ところで、第1回ファミ通エンタテインメント大賞小説部門佳作受賞作、と帯などに書いてあるが、あとがきによると受賞作の続編らしい。改稿したものでなく新たに書き起こしたものなら、それは受賞作とはいわないと思う。受賞作の方も出版してほしい。
(2000年1月6日読了)