インターネットのボトム・メールで知りあった女性とメールのやりとりをするうちに、彼女を唯一の親友と思うようになった桜井瞳子は、そのメールの相手の妄念に捕らわれてしまう。
温室の中で小箱を拾った仁科由香里は、戦時中の女学生と精神感応して現実と幻覚の区別がつかなくなる。
教師多田克昌は気になる同僚教師長谷川美佳が心臓病で倒れたときに、町で不良学生から暴行を受け、彼らの心臓を美佳に与えてしまいたいと願う。その結果、自分の担任している生徒の心臓を手にし、美佳にそれを与えるかどうか苦しむ。
3人の苦境を救った謎の学生、相馬藤彦。3人は「学校にとらわれていて外には出られない」という藤彦の言葉を頼りに、彼を「学校」という空間につなぎ止めているものから解放しようと試みる。
正統派ジュヴナイル小説という趣きがある。ホラーと銘打っているが、どちらかというと事件を通じて登場人物の心を癒し、読者の心も癒していくような、そういう感じがする。物語のまとまりはよく、無理なく読ませる。ただ、ストーリーがあまりにスムーズに進みすぎてなんとなくあっけない印象が残ってしまった。全体に平板な感じがしてならないのだ。もうひとひねりして奥行きを持たせることができるのでは、と思う。物語の骨格がしっかりしているだけに、そこが惜しい。
もっとも、中高生が素直な気持ちで読めば、それなりに感動するであろうツボはしっかりおさえているから、おっさんがそれ以上のものを求める必要もないのだとは思うが。
(2000年1月14日読了)