ヤングアダルト中心に活躍している作者が、一般向けのホラー小説に挑戦した。
インカ研究をしている大学のゼミ生たちが、研究旅行で南米に行き、殺人事件に巻き込まれる。そして、帰国後もゼミ生たちの間に死者や怪我人が出るなど怪異が起こる。ゼミ生の一人、黒川美紀は、他人にのりうつってその人間を操り殺人をさせたと言う。その親友でルームメイトであり、同じゼミ生でもある増井繭子もまた、魂が体から抜けて見てはならないものを見るという経験をする。
彼女たちに共通する遺伝子の特徴とは、そして、彼女たちの相談に乗る心理学者津田の真の目的は……。
インカの呪いに説得力を持たせるために、遺伝子や集合無意識などの道具立てを使ってはいるが、主人公たちの周辺に起こる事件のスケールにあまり大きさを感じさせないので、かえってアンバランスな印象を受けた。これまで作者の書いてきたヤングアダルト小説との違いがあまり感じられない。というより、一般向けを意識しすぎてかえって荒唐無稽さに歯止めがかかったような、そんな感じだ。女子大生を主人公にするよりも、ゼミの教授あたりを狂言廻しにした方が同じストーリーでもかなり違ったものになったかもしれない。
作者はいわゆるアベレージヒッターという感じで、技量的には不足はないが、もう一つ突き抜けたものがほしい。それなりに読ませる面白さがあるだけに、そこらあたりが残念だ。
(2000年1月16日読了)