高知県安芸市に「東陽館」という旅館があって、そこは長年阪神タイガースがキャンプの時に宿舎として利用している。その旅館の娘として育った著者は若い頃親の決めた縁談を嫌って単身上京し、ホステスとして生計を立てていた。彼女は通信社の記者と結婚するが、夫は病で早世。著者は夫の夢であった阪神タイガースファンのための居酒屋を開店する。以来30年、安芸キャンプの時は実家を手伝い、東京のタイガースファンの憩いの場として店を開き続けてきた著者の半生記。
様々なタイガースファンの姿、選手のエピソードなどが、タイトル通り「母」のような視点から綴られている。とくに居酒屋「とら」にラインバック選手がやってきたときの話など、古くからのタイガースファンなら胸が熱くなることだろう。
長年の交流から、著者自身がとった数多くの選手の写真がみどころ。懐かしいあの選手、この監督、かのコーチ。
1999年の前半にタイガースが好調だったときに企画された「便乗本」のひとつではあるが、書き手のスタンスがしっかりしているためにタイガースファンの心情を的確にとらえた好著になっている。ただ、ハードカバーで出すほどのものではなく、新書か文庫でもよかったのではないかと思う。
(2000年2月10日読了)