朴念仁のお庭番、舘脇和右衛門は、将軍家斉の命により、弾けば願いを叶えるという「四大琴」を探して吉原へ。見世物小屋でからくりを操る元幇間の一八と出会い、四大琴を持つという花魁を訪ねるが、彼女は折から起こる髪切り事件に巻き込まれ行方知れず。同じ琴を狙う死生麿と名乗る公家や、謎の紅毛人たちが舘脇たちの行く手に立ちふさがる。
舘脇は、琴を追ううちに、幕府がその体制を守るために作った仕掛け、もう一つの江戸に踏み込んでいく。闇の中にうごめく江戸の姿とは。
江戸の風水を中心に、一つの琴をめぐって様々な人物が織りなす妖しき人間模様がいい。特に一八が異彩を放っている。なぜ彼がからくりを生きているかのように操り、江戸の町を守るために走りまわるのか、その謎が解けたとき、私は思わず唸ってしまった。
宝をめぐる争奪戦の面白さもさることながら、その舞台となる江戸の闇の奥深い暗がりが、深い知識に裏打ちされた書き込みと想像力で、見事な存在感を出している。
吉原の花魁たちの哀しみなど、読み進むほどにその陰影が私を惹きつけて止まない。
惜しむらくは、死生麿への作者の思い入れが強い分、突き放した描写ができず、スーパーマンなんだか人間味があるのか、最終的になんとなくどっちつかずな存在になってしまったこと。その他の人物の個性が際立っているだけに、残念だ。
とはいえ、これは傑作である。時代伝奇小説ファンの方にもそうでない方にもお薦めしたい。
(2000年2月12日読了)