読書感想文


ゼウス ZEUS−人類最悪の敵−
大石英司著
祥伝社ノン・ノベル
2000年2月20日第1刷
定価857円

 行方不明になっていた女性美術教師が発見された。妊娠していた彼女の腹を食い破って現れたのは、一見カマキリを思わせる姿で甲殻類の皮膚を持ち、どのような哺乳類とも生殖可能な、高い知能を備えた怪獣。「ゼウス」と名付けられた怪獣たちは次々と誕生し、北海道を席巻する。
 元自衛官を父にもつ中学3年生の少年、鎌田亮と、予備役から復職したその父鉄雄の2人を軸に、怪物と戦い、あるいは逃げまどう人々を克明に描いたポリティカル・フィクションである。作者は軍事サスペンスや近未来予測戦争小説を得意とするだけに、戦闘描写や危機管理についての検討は綿密である。最悪の可能性を想定してあり、そこからのサバイバル小説として読むこともできる。
 怪獣小説として読んだ場合、安易な遺伝子操作の危険性をテーマにしたものといえる。初代「ゴジラ」の「核兵器」を現代に置き換えたようなもので、科学者の倫理観を問うものとなっている。その点でいうとやや一面的なきらいがなくはない。怪獣の退治法も独創性を欠く。怪獣への愛情がもっと欲しいというのは私のわがままか。
 しかし、パニック小説として考えればこれはなかなか読み応えがある。なによりも敵の正体をつかむまでの緊迫感は、読んでいて快い。一気に読んで楽しむペし。

(2000年3月8日読了)


目次に戻る

ホームページに戻る