読書感想文


妖光の艦隊 災厄の開戦
林譲治著
KKベストセラーズ ワニ・ノベルス
2000年3月25日第1刷
定価829円

 新シリーズの開幕。
 満州の新京放送局で、一人のアナウンサーがウェルズの「宇宙戦争」を翻案しドキュメンタリータッチのラジオドラマとして放送したところ、町はパニックに陥り、満州人や中国人による暴動が起こる。満州の治安を守れない関東軍の弱さが露呈し、大日本帝国は満州からの撤退を余儀なくされる。
 一方、太陽黒点の異常が原因で地磁気が変動し、それにより気候が激変し、低緯度地方でもオーロラが見られるようになる。それは電離層にも影響を与え、無線通信が使用できないという事態をも招いていた。
 気候の変動による凶作でソビエト連邦とアメリカ合衆国の経済は苦しくなり、中国の経済を支配するイギリスと日本に矛先が向くようになる。ソ連のポーランド侵攻、ナチスドイツの不気味な沈黙など様々な条件が重なり、ついに日米が戦端を開くことになってしまった。
 地磁気の変動という要因を投げ込むことにより、無線の使えない状態での戦術と食料を中心とした戦時経済の破綻という状況を作りだしたところに本書の妙味がある。設定は大胆であるが、そこから導かれる歴史の改変はかなり緻密に構成されていて、特に経済を中心とした外交の駆け引きや無線にかわる通信方法の創出などに見るべきものがある。
 戦端が開かれるきっかけなどの描写は歴史の必然と偶然のバランスをうまく考えたものになっていて、次巻以降もこういったバランス感覚を保ち続けてくれればかなりユニークな作品になることが期待される。
 しかし、オーソン・ウェルズの「宇宙戦争」事件を森繁久彌をモデルにした人物にやらせたりするところなんか遊び心満点で、こういうお遊びは好きだなあ。

(2000年3月25日読了)


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