第11回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞受賞作。
若い研究員が開発した毛生え薬は、植物が頭皮に植え付けられて伸びるというとんでもないものだった。なんとその毛髪はどんどん増殖し、あらゆるものと融合していく。たちまち京阪神から東京から日本中を覆っていくなかで、これに融合されない体質の人々がいた。
京都と大阪に残った彼ら5人は共同生活を始める。ありとあらゆるものの記憶を共有する毛髪との不思議な共生が始まった。
「生物都市」(諸星大二郎)とはまた違った切り口で融合していく人々を描いている。そのタッチからにじみ出るそこはかとないユーモア感覚がいい。進化テーマを描いたものといっていいと思うが、その進化のスケールの大きさとユニークな発想には感心させられた。この個性はなかなか侮れない。次にどのようなものが出てくるのか、ちょっと目が離せない存在である。
なんとも奇妙な手触りとなんだかほのぼのとした雰囲気が、私は好きである。
(2000年3月30日読了)