読書感想文


古事記呪殺変
片桐樹童著
学習研究社 歴史群像新書
2000年4月13日第1刷
定価890円

 第六回歴史群像大賞受賞作。
 「古事記」は、首皇子(のちの聖武天皇)を呪い殺すために仕掛けられた暗号を含み、編纂者の太安麻呂は、実はかつて謀反を起こしたとして殺されたはずの皇子であった。安麻呂を亡命先の新羅より呼び戻した右大臣、石上麻呂は「蛇の種族」である藤原不比等の専横を阻止しようとし、「古事記」による呪殺計画を進めていたのだ。「古事記」を捧げられた元明天皇は安麻呂の正体に気づき……。
 着想は面白い。「古事記」が編纂された直後に新たに「日本書紀」が編纂されている事実に目をつけ、そこに奈良時代初期の政権争いをからめていくなど、興味深いテーマである。しかし、残念なことに、全体の構成が弱いと言わざるを得ない。
 太安麻呂の正体や「古事記」に呪がかけられていることなどは、なるべく最後まで伏せておき、クライマックスでそれを明かした方が盛り上がり方が違ったはずである。ところが、全体の3分の1でその仕掛けは全て明らかになってしまうのである。となると、安麻呂が首皇子を殺すことができるかどうかというところが焦点になってくるのだが、歴史を知っている者なら、首皇子のその後を知っている。どんなに工夫して書いても、盛り上がりようがないのだ。
 藤原不比等が「蛇の一族」というところにその根拠がちゃんと示されていないのも気になる。伝奇小説という形をとっているのだから、三輪神社をからませるなりなんなりできたと思うのだが。そこらあたり、伝奇小説としても弱いように思う。
 その時代にあったかどうか疑わしい風習が出てきたり、「太安万侶」を「太安麻呂」とわざわざ表記を変えていたり(まさか間違えたということはないだろう)、些細な点が気にかかる。
 着想はよいが、むりやり伝奇小説にしようとしたためにほころびが生じたという印象。伝奇的要素は抑えて、古代歴史小説として「古事記」の秘密だけで徹底していけばもっと面白いものになったのではないだろうか。惜しいところだ。
 新人としては、アイデアやキャラクター造形がしっかりしていて今後にも期待できそうなので、もっと構成力をつけていけば大化けするかもしれない。

(2000年4月22日読了)


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