読書感想文


荒野に獣 慟哭す 4 鬼獣の章
夢枕獏著
実業之日本社ジョイ・ノベルス
2000年4月25日第1刷
定価800円

 「独覚菌」によりスーパー獣化兵と化した御門周平は、油田の利権をめぐる中米での争いに加わっている。主たる敵は、獣化兵を支配下に置く武道家、薬師丸法山。周平とともに戦うマヤの末裔ツァ・コルたちは「聖地」に向かい歩を進める。追う法山と戦う過程で、マヤ文明とトルテカ文明、そしてインカ・アステカ文明の秘密が解き明かされていく。周平を仇と狙う少年、ニューギニアの呪師チムも戦いに加わり、さしもの周平も苦戦を強いられる。
 本巻ではやはりユカタン半島の移籍をめぐる伝奇的展開に注目したい。ここに「独覚菌」をうまく組み合わせてストーリーを展開させているので、説明的な部分でもだれることがない。
 作者の他のシリーズの主人公と同様、御門周平もまた、強大な力をもつためにかえって悩み苦しむ。しかも、獣化兵となる以前の記憶を失い、それを求めているという設定が、その苦しみをより強く演出している。
 中南米の環境破壊の問題など作者の関心の強い社会的な事柄を入れながら、決して堅い読み物になっていないところにベテランらしいうまさを感じた。
 本巻では非常に苦しい戦いとなった周平であるが、次巻ではどのように窮地を脱していくのか、楽しみである。刊行ペースが遅いのが辛いところだ。

(2000年5月4日読了)


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