著者の小説デビュー作。中川真名義で漫画原作などを手がけているということだが、書き慣れた感じで全体の構成はうまい。
強い霊力を持ち〈影〉をその身に宿している少女、一ノ瀬翠。曾祖母は〈影〉を封じるために彼女の髪を堅く結い上げ、ほどかないように戒めた。彼女の前に現れたのはプロの式神使い、神戸天明。彼は翠を利用して鎌倉近郊に出現した怪異の謎を解き、彼女が封じている〈影〉を自分の式神にしようと目論む。自分の力をコントロールしきれない翠は、神戸に頼り怪異に対峙する。
キャラクターの性格づけがわかりやすく、主要な人物をうまく動かしている反面、脇役のキャラクターが幾分類型的になりがちという印象を受けた。主人公の少女の強さと弱さが表裏一体になっているところや、その弱さにつけこむ式神使いの老獪さ、少女の身を案ずる少年の一途さなどはうまく描き出されていると思うのだが。
見せ場も多く、サービス精神にあふれた作品である。ただ、〈影〉の正体や翠がそれを封じていた理由などは本書では明らかにされておらず、単なる小道具の域に留まってしまってはいないか。これはやはりシリーズ化を前提としていて、そのあたりは次巻以降ということになるのだろうか。それならそれである程度伏線を張るなりヒントをちりばめておくなりしておいてほしかったところである。
(2000年5月21日読了)