第3回ソノラマ文庫大賞佳作入選作。
平安時代末期が舞台。荒廃する京の都で、火葬地であった鳥辺野に人々の願いを正夢にして叶える「夢売り」の少年がいた。橘路というその少年は、源望という公家からかつての恋人を死なせてほしいと依頼を受ける。橘路は望を怨霊にしてその女房を呪い殺させ、都をも滅ぼそうとする。鬼と化していく橘路をくいとめようと、彼の養母と若き陰陽師が動き出すが……。
新人らしからぬ達者な筆遣い。平安末期の史実に創作をまじえているのだが、その作者の独創部分が史実にしっくりとなじんでいる。
基本的には大人になろうとしてもなれない少年の自己確認の物語ということになるのだが、ストーリーの流れが自然で押しつけがましくないところに好感が持てる。とはいえ、そのあたりの心理描写はどうしても説明的になってしまう。そのあたりが気にかかったが、今後作品を発表し続けていくうちに解消されていくだろうとも思う。
今後の大成が期待される新人がデビューした。これからどのような物語を書き綴ってくれるかが楽しみである。
(2000年5月28日読了)