読書感想文


妖魔王 媚獄編
菊地秀行著
光文社カッパ・ノベルス
2000年5月30日第1刷
定価781円

 「妖魔」シリーズ、久々の新刊。妖魔に取り憑かれた南風ひとみをもとに戻すために工藤明彦は大黒天に力を借りようとする。大黒天は大国主として「稲葉の白兎を鱶から救い出してほしい」と工藤に依頼し、それを達成したときにひとみを救うことを約束する。白兎の生まれ変わりである人妻結城みずほは鱶に取り憑かれた男たちに次々と襲われる。工藤はみずほを鱶の手から守るために戦い始める。
 現代に蘇る白兎伝説というアイデアは面白い。シリーズ初期の暗い印象と違い、陽気で助平な大黒天など現在の作者のユーモラスな作風がもろに出ていて、もし続けて読むと面食らうかもしれない。
 しかし、大国主を大黒天の姿で登場させたこと、「因幡の白兎」ではなく「稲葉」と表記していること、古事記では「ワニザメ」であるものを「鱶」としていることなど、神話の扱いがなんとも粗雑に感じられてならない。伝奇的なアイデアを使う場合、もう一工夫ほしいところである。
 なぜ現代に「白兎伝説」が復活したかというあたりの解明などを次巻では期待したい。「鱶」を退治しておしまい、となるような気もするが……。

(2000年5月31日読了)


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